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会場 広島国際会議場
参加者 170名 (19カ国 うち外国人45名) ⇒ 集合写真
演題数 基調講演11題,シンポジウム講演20題,一般講演(口頭)10題,ポスター発表28題
第2回IUPAC−国際甘味物質討論会は上記の通り,2001年11月13日から17日まで広島市国際会議場において開催された.本討論会は田中治広島大学名誉教授が1996年7月にイスラエルのエルサレムで開催された第1回に出席された折に次回の日本開催を委託され,山崎がそれを引き継ぐものとして企画された.
糖質から高甘味料にいたる甘味関連物質に関して天然物化学,合成化学,ペプチド・蛋白質化学,生化学,細胞生物学,生物工学,味覚生理学,内科学,歯科学,食品化学,食品衛生学,行政関係など多様性に富んだ国内外の研究者が一堂に会する機会を持ったのは日本では初めてのことであった.
主催は前回に倣って国際純正応用化学連合(IUPAC)で化学が中心の学会だが,中には生化学から更に生理学,細胞生物学の分野まで幅広い分野の演題が集まった.基調講演とシンポジウム講演は組織委員会の人選によるものだが、この他に口頭とポスターの一般講演を公募した.海外の人選に関しては前回の主催者であったイスラエルのヘブライ大学のイカン教授を長とする15名からなる国際諮問委員会が主として当たった.因みにIUPACの規則によりこの委員による基調講演は禁止されている.やはり,同時多発テロの影響によるものか,出席者は当初の予想より少なめであったが,依頼講演のキャンセルがたった1題だけだったのは科学者の熱意の現れと思い,主催者一同の歓びであった.
本討論会の会期は5日間だが,最後の一日はエクスカーションに充てられ,討論は実質4日間であった.以下,日を追って報告する.
初日(11月13日)は主として甘味を感ずる受容体の機構など,生理学的な発表が行われた.英国Reading大学のBirch教授による「甘味の認識に関する水の役割」はこの討論会の最初の基調講演に相応しい内容で,甘味発現とその認識の基本となる論理の分かり易い解説であった.次いで,最近になって進歩した受容体の機能や構造に関する発表が続いた.特に甘味受容体候補T1R3のクローニングに関する演題が米国のMargolskee,
Beauchampなどからあった.講演の依頼・募集段階には完成していなかった研究がアメリカの5グループ,日本の1グループにより本年の4月〜9月にかけて世界一流誌に掲載され,これらのホットな世界最先端の研究が次々と披露されたこともあり,この討論会のタイムリーな企画に出席者と共に主催者は感激した.
また,この夕刻に開催された歓迎会においては,広島市長の秋葉忠利博士が流暢な英語で平和への願いを込めてスピーチを行い,広島名物のおこみ焼きソースの甘味度に関して言及しつつ歓迎の言葉を述べたあと,市長と欧米などの参加者との間に和やかな生の国際交流が生まれた.
2日目(11月14日)は主として天然から得られた高甘味料の話題が並び,米国Illinois 大学のKinghorn教授による天然甘味料の総説的な基調講演に始まり,わが国で長年利用している甘草(北川勲及び野村太郎名誉教授)やステビアに関する分析や応用開発の現況,さらには天然品ではないが,International Sweeteners AssociationのChairmanのMolinary博士による高甘味料スクラロースの安全性評価などの話題が続いた.この日の昼に九州大学の二ノ宮教授のお世話で行われた「旨みの科学」に関するランチョンセミナーは好評であった.
3日目(11月15日)はエリスリトールやマルチトールの糖アルコールやオリゴ糖の機能性や応用開発の現況が内外の研究者から発表され,世界の現況を知るためのよい場を提供することが出来た.なお,企業からの商品展示も行なわれ,ティー・タイムに供されたお茶やコーヒーには各社からの見本として様々な甘味料が添えられて,世界の甘味学者がそれらを実際に味わって評価していた.夕方から行われたバンケットではこの会の立案・企画・運営に最初から最後まで寄与された田中治名誉教授が、入院中の病院から駆けつけて乾杯の音頭をとり、かつて恩師・同僚と旧交を暖め、世界の学者達と交流を深めた。(先生は翌年8月に逝去された)
4日目(11月16日)はまず大阪大学歯学部長の浜田茂幸教授の基調講演で,リアルなスライドをふんだんに使った「虫歯の原因と治療に関する甘味料の役割」の分かり易い解説であった.ついで甘味料の糖尿病との関係や癌予防などの医学関係の発表が続いた.
その日の午後は,原爆ドームとともに世界遺産に登録された宮島の厳島神社へのエクスカーションが行なわれた.予め設定した日時が紅葉の見頃と将に一致したのみならず,その日は実に麗らかな小春日和で,欧米の科学者が家族同伴で日本三景の美しさに触れて,日本の秋を満喫した.
日本で行われる国際学会によく見られる現象として,演者の紹介に座長が時間を割かれて肝心の講演時間や質問時間が制限されることがあるが,今回は講演者には予めスタイルを決めたCVを提出願い,それを要旨集に刷り込むことにより紹介を省略したため,講演時間に余裕ができ,基調講演でも質疑が可能となり大変好評だった.また,化学系の国際会議では通訳は希なことだが,この討論会は企業の実務レベルの参加者が予想されたため,組織委員会で長い議論の末,英語から日本語への同時通訳をつけることにした.通訳との打ち合わせなど講演者にかなりの負担をかけたが,結果的にこれは成功して,やや分野の異なる発表を原語と同じ感覚で理解することが出来た.このことも含めて,この会の企画・運営に関しては大阪の株式会社ジェイコムに大変お世話になった.
なお,本討論会のproceedingはIUPACのPure and Applied
Chemistryの別冊として近く出版される予定である.
最後になりましたが,今回の討論会に格別のご配慮とともに多額のご援助を賜りました各種企業、財団に心からの謝意を表します.