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(2001年3月 広島県薬剤師会誌掲載) |
受験生の皆様へ |
私達の研究室のテーマと教育は「天然から得られる薬」に尽きます。自然は我々人間がいくら智恵を絞っても考えられない、思いつかないような素晴らしい薬、あるいはその原料を用意してくれます。現に、病院や薬局で処方される、あるいは販売される医薬品も、直接あるいは間接に天然物に依存していないものはほとんどありません。
これらの天然の宝を持ち腐れすることなく、自然から引き出し、それらの化学構造を解明し、その薬理活性成分を突き止め、更に安全で、より効果の高い医薬品の開発に資することを目指して研究に励んでいます。
学生達には、その研究を支える基礎となる学問を分かりやすく、興味を持たせるような方法で講義と演習を行い、この分野の研究の発展と後継者養成を目指しています。
無限ともいえる天然資源の中から研究材料を見つけて、一流の研究に完成させるには、まず、材料の選択が大きな位置を占めます。このため、私達の教室員は視野を広く持って、世界のあらゆる小さな情報も逃さずに収集し、医薬品の必要としているもの(needs)と、その原料となるもの(source)とを結びつけるような努力を重ねています。世界中(とは言っても、限られた人材ですので主としてアジアとアフリカの一部)の薬用植物資源を次から次へと研究材料に選んで研究を続けています。
アジア各地やマダガスカルで研究対象になりうる植物の写真 (現在2000枚・増加中)を撮って載せました。以下はそのうちの抜粋です。 キツネノマゴ科, ツヅラフジ科,
マメ科, クロタキカズラ科,
ウコギ科, ミソハギ科,
ムラサキ科, ノウゼンカズラ科,
ウリ科, フトモモ科など。
マダガスカルの植物
(158枚)とタイの植物
(456枚)はリストを別に載せました。
↓クリッカブル・マップ
(右の国々から留学生を受け入れて研究中)
●ベトナムとの共同研究,
Vietnamese ginseng(国際学会の要旨−英文)
●フィリピンとの共同研究−概要
フィリピンの民間薬(講演要旨)
Philippine Plants (国際学会の要旨−英文)
●中国との共同研究−甘味物質など
●エジプトとの共同研究−ドラベランなど
●タイとの共同研究
●マダガスカル採集紀行 (1997−1998)
●雲南省西北部植物観察旅行(1997年学会)
●マレーシアの印象(2000年国際会議)
〇インドネシアの学会(2001年6月)NEW
◎韓国での日韓生薬学会(1994, 写真1枚だけ)
上記の国での植物採集や栽培などの写真。
Vietnam, Philippine,
Indonesia, Egypt
Korea, Thailand etc.
タイの植物 (456
画像) & マダガスカルの植物
(158画像)
化学反応の他、各種クロマトグラフィー、各種機器分析、特にMSとNMR(*)の構造解析への応用研究
* NMRの原理については、京都大学大学院理学研究科化学教室
分子構造化学研究室の頁に分り易い解説があります。
*北大農学部の「ぶんせきの友」には機器分析の解析法や測定についての有用な情報が満載しています。
各種テルペンとその配糖体(イリドイド、サポニン等),青酸配糖体,含硫配糖体,アルカロイド,フェニルプロパノイド,タンニン,各種キノン,フラボノイド, ニコチン誘導体など。後は何が出てくるかは分りません。
天然甘味物質,抗アレルギー,血糖降下,糖輸送機構調節物質,細胞毒性,発癌プロモーション抑制(京都薬科大学と共同)、抗腫瘍効果及び細胞増殖抑制効果(製薬企業と共同)、抗ストレス作用(富山医科薬科大と共同)など
ベトナム人参
先代の故田中治教授以来、高麗人参の研究は笠井助教授を中心に伝統的に進められ、特に、最近は、ニンジンサポニン(トリテルペン配糖体)の代謝に関連した薬理研究で興味ある事実が明らかになりました。この研究のヒントになったのは、以前にベトナムの留学生が持参したベトナムニンジンの特異的な構造と活性を持つ化合物
majonoside R2でした。富山医科薬科大学との共同研究でストレス潰瘍にも効果が認められ、また、京都薬科大学との共同で抗発癌プロモーター作用なども見つかりました。
更に最近、笠井良次らは高麗人参に入っていないこのmajonoside R2のようなオコチロール型の側鎖を持つトリテルペンは普通のダマラン型トリテルペンの直鎖状の側鎖から代謝によって生成して、それが薬理活性の本体ではないかという仮説を証明するために、人参サボニンの代表的なアグリコン2種を肝ミクロゾームとインキュベートすると側鎖が巻いてオコチロール型の化合物が出来ることを突き止めた。(Kasai
et al., Chem Pharm Bull . 48:1226-1227 (2000. [Abstract])
更に、湧永製薬の松浦らは直鎖状側鎖のサポニンを含む三七人参エキスを服用した健常人ボランティアの尿からオコチロール型の化合物を同定した。(Matsuura
et al., Natural Medicines, 56, 34-39 (2002) これらはいずれも状況証拠に過ぎないが、有名な人参の薬理の本体に一歩迫ったものと評価されている。これらを纏めて、2002年10月韓国で講演した。
甘味物質
次もこの教室の長いテーマの一つです。蔗糖は天然の優れた甘味物質で栄養価も高くエネルギーの源泉で、戦後これが不足した時代に餓鬼だった我々の世代には想像も出来なかったことですが、現在はいわゆる文明国では過剰生産・消費の傾向が強く、カロリー過多、糖尿病、肥満、虫歯などとその弊害の方が目立っています。
それなら、「甘いものを断てばよい」と思っても、それが出来ないのが人間の弱さです。そこで、蔗糖に代わる「甘味を持ち、カロリーのない、虫歯にならない」代替甘味料の開発が次から次へと行われています。我々の研究室ではその原料を植物に求めて、先代の故田中名誉教授の頃には南米
パラグァイのキク科植物 Stevia
rebaudiana の研究で世界の先端を行く研究が行われました。
マレーアのペナン島に自生するキツネノマゴ科の植物Staurogyne merguensisから味覚変革物質 strogin を単離してその構造を決定しました。この植物の葉自身は甘くないのに、少量を噛んで捨て、後で水を飲むとその水が甘くなるという不思議な物質です。
最近、ベトナムの留学生が地道な「聞き込み調査」で得た情報により、ベトナム中部で少数民族が甘草の代用にしているガガイモ科の植物の存在を知りました。彼はこの植物から 世界一甘い天然の配糖体(化合物15) [Chem. Pharm. Bull., 49, 453-460, (2001) (Whole TEXT in pdf File)],
(Abstract only) を単離・構造決定して、学位を取って帰国しました。この化合物はプレグナン配糖体で、その仲間には有毒物質があるので、慎重な検討が必要ですが今後の発展が楽しみです。また、2002年には、マダガスカルのウコギ科植物からステビオシドと類似した骨格を持つカウレン型ジテルペン配糖体を発見し、それにも甘味があるため、構造活性相関の新しい発展が期待される。
抗アレルギー活性
活性においては、抗アレルギーに関連して、マスト細胞から抗原抗体反応によって放出する炎症物質のヒスタミンを抑える作用を指標に、フィリピンやタイの植物から活性物質を見つけました。この研究は、今後も活性と化学構造の相関を中心に進めていく予定です。
降血糖作用(主としてバナバ)
また、生活習慣病の王様のような糖尿病に関連して、1993年にフィリピンでお茶のようにして使われる民間薬 Banaba(オオバナサルスベリ)の中から、グルコーストランスポーターの活性を増強する活性を指標にトリテルペンのコロソール酸を発見しました。この物質には確かに活性があったのですが、最近、同じ学科の櫨木修教授との共同で、更に確実で活性の高い成分を目指して研究を続けてきました。その結果バナバから更にグルコーストランスポーターの活性を増強する成分を突き止めました。これは、エラジタンニンの一種で、ラジェストロエミン及び、その同族体でした。⇒最近の主な研究業績 #39 Planta Medica (Abstract)
植物に含まれる内分泌撹乱物質(環境ホルモン): Phytoestrogen