ベトナム人参に関する共同研究
1973年ベトナム戦争に参戦した一兵士が、ベトナム中部の標高1800mの山岳地方Daktoにおいてベトナム人参を発見した。本植物はその地方の少数民族の先祖伝来の秘薬であり、強壮、抗癌、その他万能の目的に用いられていた。直ちに植物学者により朝鮮人参と同属で、本属植物の南限分布の新種として記載され、Panax
vietnamensisと命名された。その後、ドイモイ政策により、この植物の研究が盛んになり、ホーチミン市にベトナム人参研究所が創立され、その研究所所長
Nguyen Thoi Nham博士の招待により、1990年に笠井良次助教授が、柴田承二、田中治名誉教授とともにベトナムを訪問し、その結果、1992年研究所の職員 Nguyen
Minh Duc氏が山崎研究室に派遣され、共同研究を開始した。その結果、本植物から37種のサポニンを単離した。そのうちの21種は同属植物との共通成分であり、14種は未知化合物であった。中でも、図示したオコチロール型サポニンmajonoside-R2の含量は本植物の地下部の乾燥重量の5%を超えるもので、薬用人参(Panax
ginseng)や竹節人参(P.
japonicus)には見られない本種を特徴付ける成分であった。Duc 氏は広島大学で学位を修得して帰国した。
この化合物の興味深い生理活性作用は主として、富山医科薬科大学渡辺裕司教授との共同研究において、やはり、ベトナムの同研究所から派遣されたNguyen
Thi Thu Huong氏を中心に展開され、この生薬の効果を裏付ける精神的ストレスによる傷害を予防する作用を見出した。
一方京都薬科大学の木島孝夫助教授はは、以前から植物に含まれる抗発癌プロモーター作用を有する化合物の研究を行っており、これまでにマメ科、ウリ科、アカザ科、羊歯のトリテルペン、そして、朝鮮人参サポニンについて活性物質を同定しているが、この度、予試験的にベトナム人参エキスを測定したところ、朝鮮人参より強い抗発癌プロモーター作用を見出したため、共同研究をおこなった。その結果、ベトナムニンジンの活性成分は、やはり、主成分であるMajonoside-R2であり、その効果は現在まで知られている同作用を有する化合物に比べて、一段と高いことが判明した。
なお、本種は、ベトナム中部の山岳地帯に局在して分布しているため、平地における栽培や、組織培養の試みがなされているが、未だに大量栽培には成功しておらず、資源の確保が当面の問題である。
現在、当研究室には、ベトナム人参研究所からVo Duy Huan氏が留学中(大学院博士課程)で、主として、この植物の葉に含まれる興味ある成分の分析を行っている。