MADAGASCAR

1.マダガスカルにおける天然素材研究の必要性 (1997年度科学研究費申請書類より)

マダガスカルはその特異な動植物相と地誌的理由から神経毒性を有する天然素材に満ち溢れている。しかし、独立後、外国人による調査や標本の持ち出しが制限されていたため、その方面の研究が遅れている。現政権は経済発展のため、旧宗主国でない日本との関係を強めようとしており、現に研究代表者はマダガスカルの留学生を教育している。現地研究者は共同研究においては、学術資料、天然資源の活用を積極的に望んでおり、双方の利益に適ったものである。また、現地の人々は有毒生物の被害に悩んでおり、この研究推進はマダガスカルの民生の向上にも役立つことが期待される。

2.向神経性薬研究の期待される成果

 神経毒の精製と作用機序解明が脳神経科学に大きな発展をもたらした例は多い。分担者中嶋は過去にパプアニューギニア、マダガスカルの学術調査をにおいて、クモ毒に脳内の主要な神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の特異的阻害作用物質を発見している。また、代表者山崎は、日本学術振興会の共同研究事業でフィリピンに9回、タイ国、ベトナム、中国を訪問し、現地の民間薬から、数多くの生理活性物質を単離・構造決定に成功しており、さらに植物地誌的に異なる地域の材料から、新奇で、興味ある生物活性を有する化合物の発見が期待される。

この種の研究は、生物の多様性に深く依存している。すなわち、生物相の豊富なマダガスカルは、現在まで研究されていない薬用資源の宝庫である。しかし、それらの資源をかつての植民地の宗主国のように、蹂躪して、搾取するような方法で開発するのは人倫に反した行為である。本研究は、あくまでも、現地の人々との円満な共同研究によって、相互が利する方法により、自然の恵みである天然資源を調査し、それらの研究材料から、人間の考えつかないような活性を有する化合物を単離・構造決定し、それをリード化合物として、関連化合物に誘導し、神経化学領域の研究を発展させることをその根底に置いている。

 具体的には、前回の代表者中嶋らのマダガスカル調査経験を踏まえて、雨期入りの12月〜1月に第1回の調査を行い、現地政府機関との接触、現地の唯一の国立大学のアンタナナリブ大学との共同研究により、広く現地の生物相を調査し、特に、有毒動物、宗教儀式に用いる民間薬用植物の収集を行う。それらの試料に関する共同研究の分担を綿密に打ち合わせた後、日本に持ちかえり、マダガスカルの留学生も交えて有効成分抽出・精製・構造決定・活性測定研究を行い、向神経性物質のみならず、抗マラリア、抗アレルギー物質の探究に努める。

 代表者山崎はフィリピンを始め、中国、タイなどの薬用植物野外調査の実績を有する。分担者中嶋は、以前に、代表者として平成4〜6年度にマダガスカルの学術調査の隊長を務め、今回のメンバーの篠永、安原も隊員として参加しており、現地との予備的な交渉はすでに終了している。また、分担者笠井と大谷は、中国との植物学術調査の経験が豊富である。さらに、分担者森山は長期間マダガスカルに滞在し、この国に関する文化人類学で学位を取得後も数回同国を訪問しており、フランス語のみならず、マダガスカル語にも堪能である。また、現地参加のマルタ教授は、前回の調査で、現地で協力したのみならず、1994年には来日し、この計画について打ち合わせし、現地の大学の優秀な学生エミリエンヌを広島大学に国費留学生として派遣しており、山崎がその指導教官として現地の薬用植物成分研究の指導にあたっている。従って、すでに、実質的な共同研究はスタートしている。

 前回の調査ではカエル、クモ、サソリなどを中心に調査し、Mantella 属のカエルからイオンチャンネル遮断作用を有する新規アルカロイドの構造を明らかにし、各種のクモ類からもマスト細胞脱顆粒因子としての新規ペプチドを発見、構造決定している。 マダガスカル地域における小動物の神経毒研究は、前回の中嶋らによる調査以外には、国内はもとより、国外でも行われていない。民族学的調査については、国内においては、研究分担者の森山がマダガスカル中央部のシハナカの墓と社会関係を明らかにした研究があるのみである。

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