Hase, Ohtani, Kasai, Yamasaki and Chayan, Phytochemistry, 40, 287-290 (1995).<PDF file>
我々がタイ産のノウゼンカズラ科の植物
Millingtonia hortensis から単離したフラボノイドは以前、この植物から単離された hortensin と物理化学定数が一致していた。そして、hortensin に最初に提唱されたのは構造式1であった。
Bunyapraphatsara et al, Phytochemistry, 28, 1555 (1989).
ところが、1992年に、別のグループが同じ植物から得た"hortensin"は先のグループの化合物1と同一のNMRとMSを与えたが、1の構造式に対応する化合物を合成したところ、スペクトルが一致しなかった。そして、新たに構造式2を提唱した。2は既にキク科のFlourensia
ceruna などから単離されている既知物質 circimaritin であった。
Nair et al, Phytochemistry, 31, 671 (1992).
我々が同じ植物から得た"hortensin"は上記文献のいずれとも同じ性状を有するが、NMRの解釈、特にNOEにより、その構造式は1でも2でもなく、構造式3であることが容易に分かった。これもDigitalis schischkinii などから得られている既知物質のpectolinarigenin*
であった。
*Imre et al, Phytochemistry, 16, 799 (1977)
各種モードのNMRが取れるようになった1990年代になっても、まだ、こんな簡単な化合物の構造を間違うことがあるということは、色々な教訓を含んでいる。少なくとも、我々のグループは簡単な既知化合物を得ただけなのに、過去に構造式が誤って提唱されたお陰で論文が出来た。